仙人の祈り

企業の存在意義とは何か - JR東に学ぶ収益性と公益性のバランス

東日本大震災の発生から翌月の4月29日、東京-秋田間を結ぶ「こまち」が復旧し、運行が再開された。

こまちは盛岡と秋田間は在来線の特急扱いとなり、地上を走るのが特徴であるが、当地の人々は震災からの復興の象徴的な出来事としてとても喜び、ツイッターでこまちに手を振って歓迎しようと呼びかけられた。

komachi115.jpg私はこの動画をJR東の経営陣の一人から教えられた(クリックでYoutubeへ飛びます)。彼らが米国の投資家をIRで回っていた時に、私のところへも足を運んでくれてミーティングをした。後日メールで送られて来たのがこの動画である。

私は従来から鉄道会社ほど、巨大な資産を持て余している会社はないと考えている。誰よりも価値の高い土地を持ち、誰よりも集客力を持つ圧倒的有利な存在であるのに、彼らが出す利益が少な過ぎると思っているからだ。

JR東はその観点では最も進んでいる会社である。旧国鉄でありながら、官僚的な色合いは薄く、他の民営化した企業と比べても、経営が近代的である。エキュートなどに代表されるように、駅ビルの再開発に積極的であるし、Suicaなどの高度な決済システムを見たら、海外の人はみなビックリするだろう。

ただ、それでも不採算の路線や、収益性の悪い小売や宿泊業など事業も多く、経営効率化の余地がたくさんある。また、設備投資や外注費の査定が甘く、回収出来ていない案件が数多くあることが実績値から容易に汲み取ることができるため、それらを追求した。

これに対して経営陣は、「我々は会社を経営するにあたって、数字以外の使命も負っている。あなたの言うような効率性のみを追求したら、結果的にお客様に満足のいくサービスが提供できず、企業価値も低下する。」と反論をした。

私は本音では、彼らの言うことは十分に理解している。毎日、何万人もの乗客の命を預かり、安全に運行させるのは並大抵の苦労ではないだろう。また、社会インフラとして国民全体の豊かな生活に資する必要があり、ある程度の非効率は受け入れなければならない。しかし、投資家として対峙している以上、資本効率に改善の余地のある会社に何も言わない訳にはいかない。結局ミーティングは平行線のまま終わった。

こまちの動画を見ると、JR東の経営陣がいかに会社を愛してるのかが分かる。彼らは、沿線から手を降る人々の思いこそ、自分たちの存在意義であると私に伝えたかったのであろう。現場で汗を流す社員の気持ちなど、投資家には理解出来る訳がないと、悔しい思いをしたに違いない。

確かに、企業は何も収益の極大化のみを目指せば良いわけではない。消費者や社員に愛されるような真っ当なビジネスをしていなければ、永続的な成長はできない。特に旧国営企業は、本来のミッションである公益性を国から要求されている一方で、自由度の高い二番手からは価格競争を仕掛けられ、投資家からは収益性を求められている。経営陣の日々の苦悩はよく理解出来る。

私はこのようなことを踏まえて、種類株の発行が有力な解決策であると返信をした。JRのような公益性の高い会社は、A株B株などのように性質の異なる株に分けて上場するのがよい。高配当をもらえるが議決権を持たない株と、配当は低くなるが議決権と、会社が倒産した時に優先的に財産請求権を持つ株とに分けて上場させる。

東電もそうだが、災害の多い日本の場合、まさかの事態が起こる確立が高い。このような会社は投資家へ所有出来る権利を分けてあげることで、取りたいリスクとリターンを限定してあげることも一つのソリューションとなるのではなかろうか。多くの投資家はJRには安定配当を求めている。配当の高い株を買えるのであれば、会社が永続性のみにフォーカスした経営をしても、文句は言ってこないはずだ。

繰り返すが、JR東は旧国営企業の中でも、最も近代的な経営にシフトしている会社である。JR西やNTTグループや東電などのような"お公家さん"ではない。そもそも海外投資家を回って市場とも対話をする姿勢を一貫して示しているのはこの会社くらいのものである。彼らのお陰で私も、企業の存在意義と長期的な企業価値とのバランスを、改めて考えさせられることとなった。

こまちを廃線すれば、JR東の設備投資は軽くなり、将来のキャッシュフローは改善する。人件費や維持費、システム関連費も大きく削減できる。在来線の線路を走ってでも秋田へ向かうこまちには、投資家では推し量れない将来価値があるのかもしれない。

BLOGOSで読む
Ceron.jp
[ 2012/12/11 18:00 ] 投資全般 | コメント(6)
考えさせられます
確かに考えさせられる話ですね。旧国営企業は叩かれてばかりですが、かれらは国から公益性を未だに強く要求されているわけで、若干のハンデがあるということですね。
[ 2012/12/11 21:30 ] [ 編集 ]
ズーンさんコメントありがとうございます。

そうですね。東電のように天下りでまったりやっている会社もあれば、JR東のように、しっかりとした経営をしているところもあります。民営化した会社でもずいぶんと中身が違います。
[ 2012/12/11 22:14 ] [ 編集 ]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2012/12/12 07:35 ] [ 編集 ]
コメントありがとうございます。

そうでしたか、それはタイムリーでしたね。新幹線の券くれるのはいいですね。あとは配当をもっとくれればいいのですが。

私と話している途中、先方は心の内に怒気を持って反論して来ました。私はその時に、いい経営者だなと思いました。真面目に会社のことを考えている証拠です。逆に言えば、私にそれを試されていたとも言えます。

我々の組織のトップにも見せてあげたいくらいでした笑。
[ 2012/12/12 08:45 ] [ 編集 ]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2013/12/09 18:59 ] [ 編集 ]
Re: タイトルなし
そのようなことはありません。IPOは株主になるには絶好の機会ですが、その会社の将来性を分析するには材料が不足していたり、IPO自体が投機的なイベントになってしまって、実力以上の株価で評価されていることが多いため、その後株価が大きく下がるリスクを伴います。

何も調べずにIPOは取り敢えず初値は上がるからという理由で参加しても大して良いことはありません。IPO、PO、上場株の差はなく、株価というのは中長期的には本源的な価値に収束します。この原則を無視して短期で丁半の賭け事をしていても勝てません。勝てる投資家には信念と忍耐が必要です。
[ 2013/12/09 19:52 ] [ 編集 ]
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
筆者紹介

check 小松原 周 (あまね);

ファンドマネージャー・アナリスト。日本株(東京)や米国株(ウォール街)の経験が長く、取材した会社は5,000社を超える。徹底したリサーチと業績予想に基づき投資判断を行うファンダメンタリスト。

*ブログ記事は、どのような場合であっても個別銘柄の投資判断に関して述べることはありません。

By 管理人:

Macoちゃん♀・x・)

記事の募集

社会全般や政治・経済に関して、記事の寄稿を募集しています。お名前、タイトル、本文を以下のフォームにてお送り下さい。採用・不採用は当ブログへの記載を以ってご連絡とさせて頂きます。

お名前:
メルアド:
タイトル:
本文:

人気記事(当ブログ内)
記事検索