仙人の祈り

経営の神様 - 金川社長の偉業

私が最も尊敬する経営者の一人は、信越化学の金川社長(現会長)である。

経営の神様と言われる人の多くは、その独創性や人材育成などに特徴があるが、金川社長の場合は少しポイントが違う。

信越化学が基礎素材の製造会社であることにも起因するが、彼の凄さは徹底した数字の管理と先見の明にある。

日次で経営

金川千尋1990年、シンテック(北米の塩化ビニル工場)の社長を務めていた金川氏が社長に就任すると、まず、すべての工場に日次で数字を報告するよう要請した。当時の製造業の常識では、数字を本部に上げるのは週次か月次が慣例である。現場は相当に混乱したに違いない。

本社にはグループ全体での営業利益も日次で作成するよう指示した。世界広しと言えども、営業利益を日次で計算している会社は信越化学のみである。これを実現するべく、信越の財務部長は独自の会計手法を考案し、実践していった。

信越化学が上場企業で一番最初に決算を発表するのはこのためである。彼らは毎日決算をしているに等しいため、四半期の決算でも、極論すれば次の日に発表をすることも可能だという。

「毎日膨大なデータを見ていると、今この瞬間のどこにムリやムダがあるのかが手に取るように分かるようになるのです。」と以前コメントしていた。

2007年の後半、金川社長は北米の住宅市場の危険を感じ、塩化ビニルの工場の稼働率を落とし、営業リソースを他へ向けるよう指示をした。これが信越がリーマンショック時のダメージが圧倒的に小さかった理由である。

金川社長の経営判断が神のごとく当たるのは、実はこの日次でのデータ管理システムによるところが大きい。
徹底したコスト削減

信じられないような話だが、金川氏は社長を務めた1990年から2010年までの期間、50万円以上の経費はすべて社長決済にしていたという。信越のコスト意識の徹底ぶりをよく表している。

本社は、東京駅近くの朝日生命ビルの中の1フロアーを間借りしたものである。受付は1畳程しかなく、電話機が1台置いてあるだけ。会議室は子供部屋程度の広さで調度品はなく、バザーで買ったというボロボロのソファーがあるだけである。

聞くと「自分たちはB to Bの企業であり、見栄えのよいオフィスは必要ない。そこに使うお金があるなら、一円でも多く工場のために使いたい」という答えが返ってくる。

当然、広告やホテルでの決算説明会などは一切やらない。金川社長に運転手はおらず、車を使う場合は自分で運転する。(過去記事: ダメな会社の5つの法則と正反対である。)

先見の明

~シリコンウエハー~

信越化学は半導体の基盤に使うシリコンウエハーで世界シェア35%を有するトップ企業である。

彼らがこの事業を長野工場で始めた1960年代当時は、売上が碓氷峠の"峠の釜飯"よりも小さく、彼らの売上を越えるのが目標だったという思い出話を聞いたことがある。

しかし、金川氏を始め、信越の人々は「これから半導体の時代が来る」と確信していたらしく、投資を続けていた。日本がその後半導体で世界を制覇した要因の一つは、信越が世界最高品質のシリコンウエハーを供給し続けたことにある。

~塩化ビニル~

塩化ビニルも同様で、今でこそ世界シェアトップであるが、実は1960年代はトップ10にも入らない弱小企業であった。当時、海外事業部長であった金川氏は、粘り強い交渉の据えルイジアナで工場を建設する許可を得る。

金川氏がそこに拘った理由は、実はその場所の地下には巨大な岩塩の岩盤が眠っていたからである。塩化ビニルは塩とエチレン(原油)からつくるが、シンテックの場合は、減量の半分は、自社工場の敷地の地下から取れるのである。

塩化ビニルというのは、最も価格が安く汎用的な樹脂である。当時はこの投資費用の回収は出来ないとして、メインバンクから融資を断られる程であったが、それでも信越は自力で巨額の投資を行い勝負に出た。

その後、シンテックの塩化ビニル事業は汎用樹脂の常識を覆す収益性を出すようになり、世界最強の工場と呼ばれるまでに成長した。

~太陽電池~

一方で事業化しないことで救われたことも多い。信越は金川社長の指示で15年前から太陽電池の研究を行っており、世界で最も太陽電池関連の特許を持ち、世界最高の変換効率を出す技術を持っている。

しかし、それでも太陽電池を事業化していない。彼の中では、太陽電池ブームは一過性のものに過ぎないということが見えていたのかも知れない。ここが、他の日系企業と大きく違うところである。

~この先の世界~

私は金川社長に「この先の世界はどのようなイノベーションが起きそうか」と聞いたことがある。彼は「情報通信分野、エネルギー分野に更なる飛躍があるでしょう」と教えてくれた。

近年、金川社長はルイジアナの自社工場の周りの土地を購入するように指示していた。その面積は何と半径17km四方の広大な土地である。現在でもそれらは荒野のままだが、何かの布石であることは間違いない。

金川氏は高齢のため、2010年に社長を退いた。汎用的な製品で後発企業が世界トップに躍り出た例は、日本では金川社長率いる信越化学のみである。

「当たり前のことを当たり前にやっただけですよ」と本人は謙遜するが、誰にもマネ出来るものではない。日本の経営者は、金川社長からまだまだ学ぶべきことがあるだろう。
[ 2013/01/02 18:00 ] 投資全般 | コメント(0)
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筆者紹介

check 小松原 周

こまつばら・あまね/ファンドマネジャー・アナリスト
徹底した企業リサーチと業績予想をもとに投資を行う。現役のファンドマネジャーであるため、外部への情報発信において、個別銘柄の投資推奨などは行っておらず、報酬も得ていない。

(会社四季報より引用)

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