仙人の祈り

唯才是挙 - ノスタルジー社会を打倒せよ(その2)

(その1はこちら)西暦200年代前半の中国は、400年続いた漢王朝が弱体化し、群雄割拠する時代であった。三国志として有名な動乱の時代であるが、実はこの時、政治システムだけではなく、文化や学問も、飛躍的な発展を遂げた。

この中心にいたキーパーソンが魏王の曹操である。曹操は政治家としても、武将としても、軍師としても、法律家としても一流であるが、横朔(おうさく)の詩人と後世で称えられるように、俳人でもあり、その他にも、音楽、料理、医学など、ありとあらゆるものに通じている傑物であった。

唯才曹操の成した偉業は数え切れない程あるが、今の時代から見ても斬新すぎる施策が、建安15年(西暦210年)発令した「求賢令」である。この命令の真価は冒頭の4文字にある。そこには「唯才是挙」と書かれていた。唯(ただ)才のみ是(これ)を挙げよ。つまり、家柄や出自、経歴にこだわらずに、ただ才能のある者だけを推挙するように役人に命令したわけである。

当時は儒教が中国の学問の中心であり、役人は儒教家ばかりであった。孝の道を説く儒教にとって、才能さえあれば家柄なんて関係ないという考えは、あり得ないことであった。しかも、才能がある人物を見逃してしまった役人には、国家に機会ロスを与えたとして厳罰を下すと明文化されていた。

「魏武(曹操)は書の達人から、盗みの達人まで、一芸に秀でた者の顔と名を2,000人以上記憶していたが、才のない者は自分の子どもでさえも名前を覚えていなかった」と魏書に記されているくらいであるから、余程のものであったのだろう。

このような命令が下された背景は、当時が動乱の最中であったこともある。超大国であった漢は、長く続いた官僚制度の腐敗によって滅びた。勝てば官軍、時代の正義は勝った側が後でいくらでも書き変えられる。伝統や形式にばかりとらわれて、有能な人材を適職に付けられなければ、国そのものが滅びてしまうという危機感があった。

現代の日本も状況はよく似ている。決められた学問をよく勉強した人が既得権に座り、その他の才能を地に埋める。当然、そのようなシステムで永続的な成長は出来ないため、国が荒んでくる。やがて民衆から動乱が起き、それまでの既得権が打倒され、今度は彼らが地に埋められるのである。

曹操の唯才令は現代から見ても、色あせていない。彼は権力にも富にも執着がなく、人間の多様性と可能性に興味を示していた。国を永続的に繁栄させるには、野から出てくる才能を取り込めるようなシステムが必要であることを確信していたことだろう。

日本の社会は特に形式を重んじる傾向がある。このような社会では秩序は整うが、一方で人材の厚みがなくなり、やがて全体の競争力を失わせる。「唯(ただ)才のみ是(これ)を挙げよ」。今の日本にも、これくらい大胆な社会システムの変革が必要である。
[ 2013/02/17 18:00 ] 経済社会 | コメント(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
筆者紹介

check 小松原 周 (あまね);

ファンドマネージャー・アナリスト。日本株(東京)や米国株(ウォール街)の経験が長く、取材した会社は5,000社を超える。徹底したリサーチと業績予想に基づき投資判断を行うファンダメンタリスト。

*ブログ記事は、どのような場合であっても個別銘柄の投資判断に関して述べることはありません。

By 管理人:

Macoちゃん♀・x・)

記事の募集

社会全般や政治・経済に関して、記事の寄稿を募集しています。お名前、タイトル、本文を以下のフォームにてお送り下さい。採用・不採用は当ブログへの記載を以ってご連絡とさせて頂きます。

お名前:
メルアド:
タイトル:
本文:

人気記事(当ブログ内)
記事検索