仙人の祈り

ココロの凝りを解す - 人間らしい生き方と望郷の念

ローカル線の車窓に映る情景を眺めていると、なかなか端末がネットに繋がらなくてイライラしている自分がバカらしく思えてきて、電源そのものを切ってしまった。ネット中毒の私にはちょうど良い機会だ。

日本のとある会社が主催するイベントに招待してもらったので、週末に行ってみることにした。地元にも程近く、多少の土地勘もあるところだが、長らくマンハッタンの喧騒の中で暮らしていた私は、久しぶりの新鮮な開放感を楽しんでいた。

山間の駅山間の狭い道を電車がトコトコ登って行く。窓から春の暖かい空気と山の香りが入ってくる。車両には地元の女子高生と、作業服を着たおじいさんと、私しかいない。女子高生は赤い下敷きで英語を勉強し、おじいさんはクロスワードパズルをやっている。私は何もせず、遠くの山の稜線を眺めている。

目的の駅へ着くと、車で迎えに来てくれた人がいたので、それで会場へ向かった。電車で来る人なんてそうはいないらしい。車で20分程移動してようやく目的地に到着。会場に付くとスポンサーである会社の社長に軽く挨拶して「わざわざ来ましたよ」ということだけアピールした。

「特等席を用意しているので」と案内されたが、それを頑なに断って、最終的に何とか逃れることができた。そうまでして嫌がる理由とは、実は「特等席」には主賓である皇族の方がいらっしゃるためだ。

その昔、葉山へ有名なヨットレースのW杯を見に行った時に同じようなシチュエーションがあったのだが、ジャージに軍手という格好で高円宮妃殿下と同じ船に乗っていたら、宮内庁の役人にデッキへ摘み出された経験がある(マジです)。

会場をプラプラ歩きながら、売店でコーラを買って、草むらに寝転んで小一時間程ボーとしていた。山の稜線からやって来た風が、草原を駆けていく光景が目で見える。

選手たちは上手く風と一体となり、地上の重力から解放されて飛び立っていく。彼らは自然に対する尊敬と畏怖の念を持っていた。月並みな発想であるが、美しい自然に囲まれて生きるというのは、本当に羨ましいことだと思った。

人間の感情というのは外部的な刺激によって、波紋のように波立つ。都会にいると、不特定多数の刺激から攻撃されることを警戒し、ココロをガードしなければならない。結局、人間らしく素直に泣いたり、笑ったり、喜んだりすることが出来なくなってくる。名前は付いていないかも知れないが、これはある種の病気だろう。

イベントの途中だったが、予定があったので駅へ戻り、電車を乗り継いで、夕方には地元の街へ到着し友人たちと食事に行った。彼らと会うと、決まって私に「お帰り」と言ってくれる。

私は「ただいま」と答えて、初めてここから外の世界へ打って出ていて、今戻ってきたのだと実感する。昔のバカ話をしながらご飯を食べていると、ようやく私も大声で笑えるようになってきた。日中に浴びた自然の息吹が、私のココロの凝りを解してくれたお陰である。

夜は実家に一泊したが、夜明けすぐにも東京に戻らなければならなかった。地元の空気を吸ってしまうと、このまま帰りたくないという感情がいつも湧いてくる。耐え忍ぶのには幼過ぎるし、逃げ出すには大人になり過ぎてしまった。歳を取るとは時にそんなものだ。

それでも、ロールプレイングゲームはまだ始まったばかり。私が身につけたジョブが、私が大切にしているモノを守るために、いつか役立つ時が来るであろう。そう思って再びこの街から打って出ていくのである。

故郷は遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしやうらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
故郷思いて涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

室生犀星

この詩がピッタリ当てはまることを考えると、今も昔も望郷の念というのは変わらないものなのであろう。ココロの凝りを少し解したところで、再び自分のストーリーを演じるために、東京へ戻っていった。
都会の大人
毎回楽しみにしています。

子育てしながらの転勤族です。
東京から始まり、東北の田舎→さいたま→東北→さいたま、で三年目。
仕事でも子育てでも、さいたまでは耳障りの良いうわべだけの言葉のお付き合いしか出来ていません。

欲望を押し殺して、表面上巧くやるのが大人なんでしょうね。
つまらないオトナには成りたく無いと思いつつ二年後は東京に引越す予定です。

孤独の旅は継続中です。
[ 2013/03/19 19:53 ] [ 編集 ]
Re: 都会の大人
ひなこさん、コメントありがとうございます。

転勤を繰り返しながらの子育てですか。人付き合いも含めていろいろと大変でしょうね。まさに「孟母三遷の教え」ですので、お子さんの教育上はかなりのプラスになるかも知れませんよ。私も小学校の前半までは都会で育ち、その後、親の仕事の関係で田舎へ引っ越しました。
[ 2013/03/19 20:53 ] [ 編集 ]
久しく忘れていましたが
自分が何のために戦っているのかを思い出さないといけませんね。

こんな所で擦り減って終わってたまるか...
[ 2013/03/19 21:39 ] [ 編集 ]
Re: 久しく忘れていましたが
びらんしあさん、コメントありがとうございます。

人にはそれぞれ大切にしているものがあると思います。それは人かもしれないし、モノや風景や、思い出かもしれません。

何れにしても儚い一人の人間の一生で、それを守りきるというのは、とても大変なことだと思います。しかし、それでもその大切なものを常に心の拠り所とするべきです。そうすることで、人は強くなれると私は考えているからです。

http://www.youtube.com/watch?v=qbFhqxZpJ_Q
[ 2013/03/19 23:13 ] [ 編集 ]
故郷を離れてはや18年
いつも拝見しています。
ブログのところどころにはっとするような言葉がちりばめられて、いつも楽しみにしています。どうもありがとうございます。

仙人さんは、田舎育ちなのですね。私は田舎の公立高校から都会の大学にでて、子育てしつつ働いています。帰れる故郷があって、変わらない友人がいるというのは、本当に幸せなことだなあとつくづく思いますね。
[ 2013/03/20 00:33 ] [ 編集 ]
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[ 2013/03/20 02:57 ] [ 編集 ]
Re: 故郷を離れてはや18年
みーさん、コメントありがとうございます。

そうなんですね。よく聞かれるんですが、私はよくある日本の典型的な田舎で育ちました。高校時代の小話は以下に少し書きましたので、もしよろしければ読んで下さい・ω・
http://senninn.blog.fc2.com/blog-entry-502.html
結局、長く付き合える友というのは、学生の頃に利害関係なく友となった人が多いですよね。そういう仲間がたくさんいるというのは、有難いことですね。
[ 2013/03/20 08:23 ] [ 編集 ]
Re: はじめまして。
山本さん、コメントありがとうございます。

そんなに何かを意識して書いているわけではないんですが、皆さんからそういった感想を頂けるので、大変有難いと思っています。

就活の合否は運ですが、社会人になってからの評価は成果を評価されるので、ある意味でとてもフェアです。大切なのは、自分が情熱を傾けられる何かを持っているかどうかだと思います。大学までで付いた差は、社会人になればわかることですが、本当に小さなものでしかありません。以下のエントリーが参考になるかもしれないので、是非読んでみて下さい( ̄^ ̄)ゞ
http://senninn.blog.fc2.com/blog-entry-516.html
[ 2013/03/20 08:54 ] [ 編集 ]
はじめまして
最近、このブログを読み始めました。28才の男です。とても興味深い内容で、なぜかとても楽しく見ています。ありがとうございます。この景色、とてもキレイですね!もしよろしければ、場所を教えていただけないでしょうか?
[ 2013/03/22 08:43 ] [ 編集 ]
Re: はじめまして
トシさん、コメントありがとうございます。

とても綺麗な写真ですよね。申し訳ありませんが、場所はご想像にお任せします。日本のとある田舎ということでご容赦下さい。
[ 2013/03/22 08:56 ] [ 編集 ]
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筆者紹介

check 小松原 周

こまつばら・あまね/ファンドマネジャー・アナリスト
徹底した企業リサーチと業績予想をもとに投資を行う。現役のファンドマネジャーであるため、外部への情報発信において、個別銘柄の投資推奨などは行っておらず、報酬も得ていない。

(会社四季報より引用)

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