仙人の祈り

円安の最大のメリット - 本質的な議論を始めよう

円安はまず即効薬として輸出系企業のP/L・B/Sの改善と、価格競争力の向上をもたらす。

例えば、自動車部品大手のケーヒンは、海外への現地生産体制のシフトが遅れていたことが逆に奏功し、円安に対する利益の感応度が極めて高くなっている。もし円が105円になった場合の来期の利益は、理論上、市場予想よりも更に25%上振れることになる。

中央銀行のバランスシート一方で、トヨタ系最大のサプライヤーであるデンソーは、現地化をいち早く進めていたため、直接的な円安のメリットはそれ程大きくない。しかし、円が安くなると、現地通貨ベースで値下げをする余力が出てくるため、競合のBoschやContinentalよりも価格競争力が付き、数量増・シェア増などの恩恵を受けられる。

この10年でサムソンやLG、ヒュンダイが躍進した理由のひとつは、韓国政府によるウォン安政策にある。リーマンショック後、主要国が競って自国通貨安を誘導してきた理由も同様である。よって、今後長期的に円安が続くのであれば、これまで取り逃がしていた利益の一部は回復するため、株式市場の評価は妥当であると言えるだろう。

インフレ率2%の目標は、円安トレンドが続くのであれば、達成は難しくない。輸出系企業の収益が改善し、食料品やエネルギーなどの輸入物価が上昇するため、自ずとインフレ圧力がかかる。インフレは見た目の賃金も上昇させるため、消費が刺激され景気は改善する。政府の言っていることは間違っていない。

ただ為替が円安になればすべてがオッケーというわけではなく、日本の場合は国債(長期金利)に十分な注意を払わなければならない。日本の1,009人の機関投資家を対象に実施したアンケートでは「日本の国債危機の兆候があり金利が1%上がったとしたらどうしますか?」と聞いたところ83%は「走って逃げる」と答えたそうだ。

インフレが2%程度で済めばまだ耐えられるが、それ以上に進むと国債の利払いが徐々に怪しくなってくる。「日本国債の多くは日本国民自身がファイナンスしているため、財政は安全」という見方は、アンケートを見る限りはもう過去のものだ。

図のように、日銀のバランスシートの拡大は、どう見ても危険な領域へ突入している。黒田日銀総裁はこれを更に倍してドンで攻めるというのだから、もはやバーナンキもドラギも霞んで見える。

「政府の借金(国債)を日銀がファイナンスしている」ということになれば、日本円そのものの価値を失墜させることになるが、実態は金融機関を通じて関節的に「貸している」状態にある。他の先進国も似た状態になっているとはいえ、これは常識的に考えて、あってはならないことである。

だからと言って日本国債が将来暴落するとまでは、現時点では断言できない。何故なら、本質的な競争力に関わるところの施策がどのようなものとなるのか、今後の展開を見極める必要があるからだ。

金融政策も、財政政策も、原則はこの国の稼ぐ力を後方支援するだけであり、それ自体に経済を良くする力はない。つまりは、規制緩和や、働き方、評価体系、教育、価値観など、現在あるものを方向転換して、稼ぐ力をどれほど上げられるかが本当の勝負となる。

私の考えでは、円安による最大のメリットは、為替を言い訳にすることが出来なくなり、日本が失ってしまったものが可視化され、共有されることにある。企業も国も、抜本的な仕組みづくりの変革を迫られている。

参院選に向けていろいろな意見が出てくるだろうが、 政治家が社会保障の話ばかりしているようだと、この国はまたしても変われないだろう。「ノスタルジー社会を打倒せよ」でも述べたが、本当に未来を良くしたいと考えるならば、陽の目を浴びてこなかった若い世代を解き放つ施策が最も大切である。

借金まみれのこの国の競争力を改善させる議論が不発に終わるなら、投資家は日本国債のウェイトを下げにいくであろう。極端な円高が是正された今、フォーカスされるのは日本の競争力回復の施策にある。

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(P.S)

ちなみに、以下の3つの条件のうちどれか一つが発生した場合(或いはすべてが同時に進んだ場合は)、日本は財政破綻する可能性が一気に高くなり、日本国債は暴落する。

1) 稼ぐ力が回復せず、過去の遺産からの収入も底をついた時(経常赤字、財政赤字)

2) 銀行や保険会社などの国債の買い手の資金が底を付いた時(貯蓄の国外流出)

3) 円安が止まらず、インフレが止まらなくなった時(インフレリスク)
[ 2013/03/23 18:00 ] 経済社会 | コメント(10)
気になるキプロスは?
金曜日のNYは高値引けで終了でしたが、アメリカには関係ないのでしょうか?

世界中がじゃぶじゃぶと金融緩和をして時間稼ぎの間に
ソフトランディングの道を模索しているのですが、
私には椅子取りゲームに負けたキプロスと思えてしょうがありません。

日本では、ニュースにもならず情報が少なすぎですね。
ドラマ以上に結末が気になっているところです。

[ 2013/03/23 22:25 ] [ 編集 ]
Re: 気になるキプロスは?
ひなこさん、コメントありがとうございます。

キプロスは昨年の春頃から財政破綻が確実で、ギリシア同様にユーロ諸国に救済を求めていました。以前のエントリーでも書きましたが、ユーロ問題は何ひとつ解決しておらず、今後も何度も危機的な状況を迎えるでしょう。
キプロスの銀行封鎖はユーロ問題という大きな問題の中では、小さなことなので、あまり長引かないような気がします。もともと脱税した資金などがキプロスの銀行にあるので、そこからお金を徴収しようというのが狙いですが、そんな国までユーロであるというのが、そもそもの問題であるということですね。
[ 2013/03/23 22:59 ] [ 編集 ]
夢見る少女じゃいられな~い♪
私は日本の財政破綻はあり得ると考えてるので
今の上げ相場には、さして興味ありません。
(恩恵は受けましたがっっ笑)

起きて欲しくないというより、半分は起きてもオッケー!スタンスです。
なぜなら、その方がこれからの若い人達が救われる確率のほうが高いと思うからです。
てか、緩和の真の狙いはそれじゃないの?なんても思います( ̄◇ ̄;)考え過ぎ⁇

既に大人として生きてる人は、国に頼らず自助力を上げ痛みに耐える準備すべき時代で、
若者や子孫を守らずして、日本に明るい未来はありえないと思うんです。

パンドラの箱のように、最後に残るのは、希望=他の国にはない日本人(爺)のプライド
であって欲しいと思うこの頃です_φ(・_・

モチロン、このままアゲアゲで日本経済が上手くいくことも、望んではいるのですが☆彡
[ 2013/03/23 23:09 ] [ 編集 ]
Re: 夢見る少女じゃいられな~い♪
るんさん、コメントありがとうございます。

そうですね。日本の財政破綻は可能性として考える必要は十分にあります。(名目)金利があがり始めたら、この国は簡単に終わります。そのためにも、外貨建ての資産を保有しておくべきだと思います。

日銀のバランスシート拡大は、政府の国債増発と同様、後戻りの出来ない施策です。若者がパワーアップする以外に、この借金を減らして行く手段はないので、この部分で大した改革がなければ、この国は意外と早くに破綻するでしょう。

ノアの方舟の運賃は外貨建てでのお支払いとなります(=゚ω゚)ノ。諭吉は使えません。
[ 2013/03/23 23:45 ] [ 編集 ]
キプロスの救済手は誰か
キプロスの問題は規模が小さ過ぎると誰もが言う所ですが
ATMに列成す庶民の難渋とロンマネを奪われるお金持ちの恨みを比べると、
力学的にお金持ちに軍配が上がる気がするのです。

キプロスに降る雨に差し出される傘は…。ロシア? ドイツ?

話は変わりますが、日本に永住希望の身での外貨資産獲得は中々難しく
手を出した時期も悪かったのか失敗しています。

1:ドルコストでMMF
2 : Fx
3 : 素直にシティバンクで外貨預金する。
4 : その他色々外貨物を試してみる…。

必要性は重々承知なのですが資産運用になっているかと言えば、かなり???


[ 2013/03/24 15:58 ] [ 編集 ]
Re: キプロスの救済手は誰か
ひなこさん、コメントありがとうございます。

キプロスの救済はユーロ圏がやるしかないですが、その前に誠意を見せろということでしょうか。国が破綻するのに、個人が財産を保全できたら、この後もモラルハザードが生じるので。

外貨建て資産はドルコストで積み立てていくしかないですかね。まあもともとこのブログは「仙人モード」という私の外貨への投資手法がメインコンテンツなのですが笑。細かい手法はさておき、ちょっとずつ高金利の通貨を買っていく、仙人のような心持ちが大切というものです。
[ 2013/03/24 16:27 ] [ 編集 ]
物価水準2%は何を見るのか
お久しぶりです。
物価水準2%とはコアCPI(除く生鮮食品)によるものを指している様なので、輸入物価の一部を反映するイメージでしょうか。
「日銀理論」に与する訳ではありませんが、今から消費者物価を2.5%程引き上げるのは、意外と大変な気がします。そのため、政府が「消費税還元セール禁止令」という、自由主義社会での法律としてはおよそ考えにくいものまで持ち出しているのではないでしょうか。ただ、あれも見方によっては、価格交渉力の弱い中小の救済というよりも、給与を上積みする財源のない大手企業のためでもあるような気がしています。
また、これはちょっと先の話になるでしょうが、中央銀行のバランスシートに積み上がった資産を何時どのようにアンロードするのかが気になります。
何故リフレ派は財政政策を封印するのでしょうかね。
[ 2013/03/25 12:17 ] [ 編集 ]
Re: 物価水準2%は何を見るのか
spriteaさん、コメントありがとうございます。

確かにコアCPI(除く生鮮食品)だと、食糧品の値上がりは除外されますね。まあ、大雑把に言って円安が続くならインフレにすることはできなくはないが、スタグフレーションとなる可能性もあるので、注意が必要かも知れません。

消費税還元セール禁止という案は、確かに資本主義の国とは思えないですね。spriteaさんの仰るように、政府と大手の暗黙の了解かも知れません。値上げしやすくしてやるから、給料を上げろよ、ということかもしれないですね。

図にもあるように、このような事態はリーマンショック後に始めて起きた事態なので、どうやって元に戻るかはよくわかりませんね。米国は住宅が回復したり、企業が強かったり、安いエネルギーが出たりで、GDPが伸びて行くのは確実なので、それ程問題ではなさそうですが、日本は明確に将来に自信を持てるものがないのがネックですね。
[ 2013/03/25 12:32 ] [ 編集 ]
大規模金融緩和でGDPって伸びないんですかね?あと消費税増税でも。
[ 2013/10/18 23:00 ] [ 編集 ]
Re: タイトルなし
金融緩和は直接的にGDPへはたらきかけるものではないですが、金融機関の貸出態度が緩むことで、民間が投資をしやすくなるという効果を期待しています。
消費税の増税は日本国の経常収支を改善させますが、こちらも直接的にはGDPとは関係ありません。
[ 2013/10/19 00:09 ] [ 編集 ]
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筆者紹介

check 小松原 周 (あまね);

ファンドマネージャー・アナリスト。日本株(東京)や米国株(ウォール街)の経験が長く、取材した会社は5,000社を超える。徹底したリサーチと業績予想に基づき投資判断を行うファンダメンタリスト。

*ブログ記事は、どのような場合であっても個別銘柄の投資判断に関して述べることはありません。

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